バラが好きなら、このワイン | 科学が証明する「香りの共通点」とおすすめ品種ガイド
バラ好きに取って、愛するバラの香りに包まれる時間は何物にも代えがたい至福のひとときです。もし、その香りをワインで味わうことができるとしたら、いかがでしょうか?
ワインの香りには、しばしば「バラの香り」という表現が使われます。ブドウから造られるワインから、なぜ「バラの香り」が漂うのか。 実はこれは、単なる比喩やイメージの話ではありません。科学的な分析により、バラと特定のワインには「全く同じ香り成分」が含まれていることが証明されています。
本記事では、ワインエキスパート、日本バラ会公認インストラクターである筆者が、バラのその不思議な「香りの共通点」を化学的な視点で紐解きながら、バラ好きの方にこそ飲んでほしいワイン品種を厳選してご紹介します。

なぜワインからバラの香りがするの?
まず、少しだけ「香りの正体」についてお話ししましょう。 私たちが「バラの香り」と感じている正体は、植物が作る揮発性のオイル(精油成分)です。代表的なものに「ゲラニオール」や「シトロネロール」、「フェニルエチルアルコール」などがあります 。
- ゲラニオール (Geraniol): 甘く優雅な、典型的なバラの香り。
- シトロネロール (Citronellol): 柑橘のような爽やかさを含んだ、フレッシュなバラの香り。
- シス-ローズオキサイド (cis-Rose Oxide): バラやライチに含まれる、少しスパイシーで華やかな香り。
驚くべきことに、これらの成分はブドウの果皮や、ワインの発酵過程でも生成されます 。つまり、脳が「これはバラだ!」と認識する化学物質が、ワインの中にも物理的に存在しているのです。これが、ワインからバラの香りがする科学的な理由です。
【白ワイン編】フレッシュなバラの花束を愛するあなたへ

もしあなたが、朝露に濡れた摘みたてのバラや、軽やかなフルーティ系、甘いダマスク・クラシック系の香りがお好きなら、迷わず選ぶべき白ワインがあります。
「飲む香水」ゲヴュルツトラミネール (Gewürztraminer)
名前を覚えるのが少し難しいかもしれませんが、「ゲヴュルツ」と呼ばれることが多いです。 このワインは、グラスに注いだ瞬間に「ライチとバラ」の香りが広がります。これは、バラの主要香気成分である「ゲラニオール」を豊富に含んでいるためです 。
- 香りの特徴: 濃厚なダマスクローズ、ライチ、少しのスパイシーさ。
- おすすめのシーン: アロマティックな香りに癒やされたい夜や、スパイシーなアジア料理と合わせて。
「甘美なバラ園」マスカット/モスカート (Muscat / Moscato)
マスカット(モスカート)は、ブドウそのものの香りに加え、オレンジの花やバラのようなフローラルな香りを持っています。特にイタリアの微発泡ワイン「モスカート・ダスティ」は、アルコール度数も低く、甘口で飲みやすいため、お酒に強くないバラ愛好家の方に特におすすめです。成分の「ゲラニオール」「リナロール」や「ネロール」が、華やかなアロマを演出します。
瑞々しい、ティー系やフルーティ系のバラのイメージです。
- 香りの特徴: 瑞々しく可憐なティーローズ、白桃やマスカットそのもののフレッシュさ、アカシアの蜂蜜。
- おすすめのシーン: 華やかな気分に浸りたい休日のブランチや、イチゴのタルトなどフルーツを使ったスイーツと合わせて。
【赤ワイン編】深紅のバラやドライフラワーを愛するあなたへ

白ワインが「フレッシュな生花」なら、赤ワインのバラは、どこか妖艶で深みのある「ダマスク・モダン」「ドライローズ」の香りです。
「王のワイン」ネッビオーロ (Nebbiolo)
イタリア・ピエモンテ州で作られる高級ワイン「バローロ」や「バルバレスコ」。これらに使われるブドウ品種がネッビオーロです。 このワインの香りは、古くから「タールとバラ (Tar and Roses)」と表現されます 。土のような力強い香りの奥から、ふわりと立ち上る乾燥したバラの香り。これは「β-ダマセノン」という成分などが複雑に絡み合って生まれる芸術的な香りです 。
- 香りの特徴: ドライローズ、スミレ、紅茶、チェリー。
- おすすめ: 熟成したネッビオーロは、秋の夜長に読書しながらゆっくり楽しむのに最適です。
「隠れた宝石」ルケ (Ruchè)
「ネッビオーロは少し渋くて…」という方には、同じイタリア・ピエモンテ州の「ルケ」という希少品種を強くおすすめします。 「ルケ・ディ・カスタニョーレ・モンフェッラート」という長い名前のワインですが、「バラの爆弾」と呼びたくなるほど、バラやゼラニウムの香りが鮮烈です。渋みは穏やかで、とにかく香りが華やか。知る人ぞ知る、バラ好きのための赤ワインです 。
- 香りの特徴: 咲き誇る赤いバラ、ライチ、微かな白コショウやジンジャーのスパイス。
- おすすめ: エキゾチックな魅力あふれるルケは、少しスパイスの効いた中華やアジアン料理と共に楽しむのに最適です。
筆者イチ押し、「まるで花束を差し出されたような香り」ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ (Lacrima di Morro d’Alba)
「ラクリマ(涙)」という名は、完熟したブドウの皮がほろりと裂け、紫色の果汁の滴をこぼす姿に由来します。その切なくも詩的な名前とは裏腹に、グラスに注いだ瞬間に訪れるのは、圧倒的な幸福感です。
私が初めてこのワインに出会ったとき、あまりの華やかさに心から感動したのを覚えています。 グラスを鼻に近づけた瞬間、ワインの香りを嗅いでいるというよりも、「バラとスミレの花束」を差し出されたような、そんな鮮烈で華やかな衝撃を受けたからです。
タンニン(渋み)は控えめで、華やかさと同時にジューシーな果実味が口いっぱいに広がります。スパイスの効いたお料理によく合います。
- 香りの特徴: 摘みたてのスミレとバラ、フローラルを凝縮したような香り。
- おすすめ: まるでアロマテラピーのように香りを楽しめるラクリマ・ディ・モッロ・ダルバは、一日の終わりのリラックスタイムに、ベリー系のタルトや生ハムをつまみながら楽しむのに最適です。
余談:畑にバラが植えられている理由
ワイン産地の写真で、ブドウ畑の列の端にバラが植えられているのを見たことはありませんか? 「景色を美しくするため?」 もちろんそれもありますが、実はあれは「警報機」の役割を果たしていたのです 。
バラはブドウと同じ「うどんこ病」という病気にかかりやすい植物ですが、ブドウよりも少し早く症状が出ると言われています(また、害虫を先に引き寄せる役割も)。 昔の農家の人々は、バラの異変を見て「おっと、そろそろブドウの手入れをしないと危ないぞ」と察知していたのです。 ブドウとバラは、古くから畑で助け合うパートナーだったのですね。

好きな「香り」から始めれば、ワインが好きになる
フレッシュな香りが好きなら白ワインの「ゲヴュルツ」を、濃厚な香りが好きなら赤ワインの「ルケ」や「ネッビオーロ」「ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバ」を、自分の好みのバラの香りに合わせて選んでみてください。
「バラが好き」という理由だけで選んだワインが、案外、人生で一番のお気に入りになるかもしれません。 まずは今週末、バラの香りがするワインで乾杯してみませんか?
私はお酒全般が苦手でしたが、ラクリマ・ディ・モッロ・ダルバを飲んだことで、ワインに興味を持ちました。バラが好き、だけどワインの良さがわからない、という方に是非試していただきたいです。

